第三章 魔人

 突然現れたそれ≠ヘ人間じゃなかった。

 ただの醜い化け物、悪魔。

 そしつらに殺されると思う恐怖。

 その時現れた謎の少女。

 その少女が誰なのかはまだわかってはいない。





 「ねえ」

 「何ですか?」

 「何でここにいるの?」

 流河 裕生と川島 志織と名乗った謎の少女は昼食の時間、裕生が学校の中庭に呼び出して昼食を一緒に食べている。

 この中庭は意外に広く、真ん中には噴水があるという洒落た場所である。

昼食の場所を利用するとき、球技をするとき、と様々なことでこの中庭は使われている。

 裕生と謎の少女はその噴水の近くにあるベンチに腰掛けている。

ほかにもその近くで昼食を食している生徒も何人かいた。

 裕生は別に一緒に食べたい、という感情は一切なかった。

ただ真相を知りたいだけだった。

 「あれ?言いませんでしたっけ?あなたを護ると」

 「・・・言ったような言わなかったような・・・」

 「多分まだ状況が理解できていないようですね」

 と、少女が言うとまた少女が腕にかけているブレスレットから謎の少女の声がした。

 「まだ状況のめてないの?鈍いわね・・・」

 「そ、そんなこと言われたって・・・」

 「しかし私は私の任務をはたすだけです。余計なことは知らない方がいいと思います」

 そんなこと言われても気になるには気になる。

 「えっと・・・あの、川島・・・さん?」

 「あ、私の名前はシオン。仮の名ですが・・・」

 「シオン・・・っていうの?」

 「そうです。そしてこっちの名前はフィオ≠ナす」

 シオンと名乗った少女が腕にかけているブレスレットを指さして言った。

 「フィオ・・・さん?」

 裕生が呟くと、ブレスレットから声がまた出る。

 「名前といっても本当の名前じゃないわ、昨日話したようにサイフォスという身分には普通名前はあたえられないわけ、これはいわゆるコードネームね」

 「へぇ」

 かなり腑に落ちない部分もあったが裕生はあえて端的に返す。

 「ところで・・・」

 「何ですか?」

 「シオンさんがいる理由を聞きたいんだけど?」

 「理由・・・ですか?」

 「うん」

 「簡潔に答えればあなたを護るためです」

 「それはわかっているんだけど・・・」

 「昨日あなたの体内にレジスト≠ニいう物質が蔵しているって言いましたよね?」

 「・・・確かそんな感じに・・・」

 記憶によればレジスト≠ニいうのは特殊な能力を持つ物質のことと、ブレスレットの少女、フィオがそう言っていた。

 「魔族はそのレジスト≠ェ邪魔であり、利益にもなります。だから魔族は世界中のレジスト≠蔵している人間を襲い、奪っています」

 「じゃあ、その、」

 「魔族達はレジスト≠蔵している人間を襲う。つまり、あなたも狙われています」

 「これからもボクは狙われるのか・・・?その、魔族に・・・」

 「そういう事になりますね、レジストをヒトの体内から抜く、イコール命が尽きるということですから・・・」

 「じゃ、じゃあ・・・そのよくわかんないけどレジストを抜かれると・・・」

 「流河さんは死ぬことになりますね」

 「そ、そんな・・・」

 まだ死んではない。

しかし、またあんな恐怖を体験するとわかれば心から絶望感がわき上がってくる。

 「でもまあ私たちはレジストを護ればいいだけなんだけどね、おまえがどうなっても」

 フィオがかなりきつい口調と言葉で言う。

 「フィオ、そんなことは・・・」

 「だって本当の事じゃない?私たちはレジスト奪取を防げって言われてるだけでしょう?こいつが死のうが知ったこっちゃない」

 裕生は何か自分が死んでも構わないような言い方をフィオがしたのを妙に気になりながら気にしないフリをした。

 「で、あの、レジストがどうとかは別にいいんだけど・・・」

 「?何ですか」

 「またあんな悪魔?だっけ・・・それが来るのか?」

 「おそらく、この前悪魔が来たことから今度は魔人が来ると思います」

 魔人・・・また昨日と同じ単語が出た。

あのときは一応気にはなったのだが、状況的に違うことを聞きたかったのかもしれない。

しかし、今は知れることすべてを知りたかったので、聞いてみる。

 「魔人魔人魔人って魔人って何?悪魔とは違うの?」

 「話してませんでしたっけ・・・魔人というのは魔族でかなり高等な部類に入る魔の人のことです悪魔と魔人は広く言えば同じような物です。一応同じ魔族ですから」

 「魔の人・・・ね、じゃあ魔人っていうくらいだから、人の形をしているとか?」
 
 「その通りです。魔人は人の形をしていて悪魔より強力な魔力を使います。その強さは私たちサイフォスでも手につけられない場合が多いですね」

 シオンは言うとさっき売店で買ったものを袋の中から取り出す。

取り出したのはパック型のストローをつけて飲むリンゴジュースだった。

それを見て見ぬふりをして裕生は言う。

 「それで、またその、魔族が襲ってくるのはいつくらいなんだ?」

 「ん、えっと・・・あ、はい、それはわかりません。呪縛陣を合図に来ますから、聖者サイフォスは魔族とは同族ではありませんので、力で察知することはできませんので」

 呪縛陣とは裕生が悪魔に襲われた前にできた鮮血に染まった世界のことだ。

確か時間をとめる役割があると聞いた。

 「あの・・・」

 次は裕生ではなく、シオンの方が裕生に向かって聞いた。

 「何?」

 「これは、どうやって飲むのですか?」

 シオンはさっき袋から出したリンゴジュースのパックを裕生に差し出す。

裕生は何でこんなことも知らないんだ、と思いつつも、パックについているストローをとり、パックに注入してわたす。

 「はい」

 「・・・?」

 「えっと・・・このストローから飲むのが普通なんだけど・・・」

 「ストローから?」

 少々感心した少女はしげしげとパックをいろんな角度から見ている。

 何となくわかった気もするが、やっぱり気分が落ち着かなかった。

またあの化け物が襲いに来る・・・。

そう考えると頭が変になりそうで恐ろしかった。

 (どうなるんだろう・・・)

 と思うと、目の前に緒方が立っていた。

 「おっす!裕生」

 「・・・何だ、緒方か・・・」

 興味のなさそうに裕生は親友に返す。

 「どうした?ん?いきなり転校生の川島さんつれて昼食かい、いい身分だねェ?」

 「べ、別にそんなんじゃないって!」

 「ふぅ〜〜〜〜ん?まあいいや、改めてよろしく川島さん」

 パックのジュースを飲んでいたシオンもという川島 志織は声に驚いてすぐに飲むのをやめ、体を緒方の方に向ける。

 「あ、はい・・・えっと・・・」

 「緒方っす、緒方 智也」

 「よろしくお願いします、緒方さん」

 「さん、いらないって〜緒方でいいよ」

 「いや、そんなのどうでもいいから」

 裕生は話の途中で無理矢理割り込む。

 「何だよ、裕生、わかった!俺と川島さんが仲良くしてるのが悔しいんだろ!?」

 「そんなんじゃないっていってんだろ、で何の用?」

 「あぁ、そうだった実はなぁ−」

 緒方がそこまで言いかけたまま、緒方の動きは瞬きもせずに止まった。

 裕生はそれを一瞬に察知し、あたりを素速く見渡す。

ほかの生徒達も同じように完全にピクリともせずに止まっていた。

 (・・・これは)

 あの時と同じように血のざわめきが感じられる。

 そう思った刹那、一瞬にして赤い靄が現れたかと思うと、昨日と同じくして辺りの景色が鮮血に染まった世界に変貌しつつあった。

 少女が言った幻魔法、呪縛陣だった。

 「こ・・・これはもしかして・・・」

 裕生はシオンの方に向くと、シオンはどこから出したのか、昨日と同じ身の丈ほどある赤と青の二本の大剣が細い手に握られていた。

 「・・・そうです。何かが・・・来ます」

 「悪魔?魔人・・・?」

 「この・・・感じは・・・」

 シオンが言いかけると、何か生暖かい風が吹いたと思った瞬間に、人間とは思えない脚力で何かが裕生向かってとんできた。

 「うわっ!?」

 腕には大きな鋭い斧が握られている。

それを裕生向かって振り下ろして来た。

 「ウラアアアアァアアァアアアアァァァアアアァァァアアァァア!!!」

 恐ろしい人間のようなうなり声をあげる。

裕生は反射的に手で顔を覆った。

 すると、シオンがそれをすぐに判断し、持っている剣で裕生向かって斬りつけてくる斧を弾き飛ばした。

 「グオッ!?」

 斬りつけてきた謎の人物は斧を弾き飛ばされて驚きの声をあげる。

 「大丈夫ですか?」

 シオンは裕生の前に立って、剣をその人物に向かって構える。

 「だ・・・大丈夫・・・何とか・・・ね・・・」

 「クックック・・・」

 その謎の人物はわざとらしい笑い声をあげる。

 その人物は縮れた真っ赤な髪を後ろで束ねている。

顔から凶暴さがにじみでていて、目と目の間には剣に斬られたと思われる大きな傷があった。

 そして筋肉は隆々としている。

 「あなたは・・・?」

 警戒しているような声でシオンはその男に聞く。

 「俺は魔人、剛腕の鉄神、ジルバ=グリーズだ!リュウガヒロオ・・・お前のレジストを奪いにきた・・・」

 そのジルバ=グリーズと名乗った男ははじき返された斧を超能力のようなものでこっちに呼び戻して、また自分の手で握った。

その端、ガチン、と鋭い音が響く。

 「そうはさせません。私はレジストを護るための刺客、聖者サイフォス、シオンです」

 シオンは名乗ると、二本の剣をチャキン、と鳴らしてみせる。

 「ククク・・・いつも思うが聖者ってぇのは気にいらねぇ!!シオンちゃんよ!もちろん邪魔する気ならお前も殺す」

 「望むところです」

 「そうかぁ・・・聖者でもお前みたいなヤツァ大好きだぜぇ!?楽しませてくれよ?」

 「そのつもりです。」

 「死んでも俺を恨むなよォ!!!ガハハハハハハハハ!!!!!!」

 「それについては大丈夫です。死にはしません」

 巨大な斧が空中から出現し、ジルバの腕に装備された。二つの斧になった。

 ジルバはその二つの斧を空中で高速で回転させる。

 「弐斧の使い手の俺をナメめるんじゃねぇぞ!?」

あの重そうで巨大な斧を軽々と回している。どんな筋力をしているのだろうか・・・。

 シオンはそれに対抗しているのか二本の大剣を交差させると、赤い剣からは炎、青い剣からは青い稲妻のようなものを出した。

炎が燃えさかる音と稲妻が放電する音が大きく轟く。

 「では、はじめますか・・・」

 裕生は見る、見ることしかできなかった。

 魔人と、聖者サイフォスの戦いを・・・。