第四章 | 凍牙の刃 |
「いくぜえ!?リュウガヒロオ共々、みんな葬り去ってやるぁ!!」
そうジルバが叫ぶと、シオンは剣を持ち直して、地面を蹴った。
姿勢を低くして突っ込み、肩を前に出すようにして気を込める。
「やあ!!!」
「ウルァ!!!」
シオンが技を出したと全く同時にジルバが斧を唸らせるとともに叫んだ。
シオンの剣の炎と稲妻の『気』とジルバの大きな龍の『気』が絡み合い、打ち消しあう。
「おらぁ!!!」
次の行動はジルバのほうが速かった。
強烈な蹴りが襲いかかる。
鋼鉄のブーツのつま先をシオンは何とか剣の柄で受け止めたが、床に転がされた。
斧を振り回し、ジルバが迫ってくる。
シオンはすぐに姿勢を立て直し、迫ってくるジルバの斧を剣で何とかうけとめた、が
あまりにもの凄い斧の衝撃のせいでシオンは大きく後ろにのけぞる。
「クッ・・・」
「ガハハハハ!よく受けとめたな!弐斧の斬撃を!!!だが、いつまでもつかな!?」
言うとためらいなく、シオンの方に向かって突っ込むと、また二本の斧 弐斧≠ナ斬りつける。
しかし、シオンはまた間一髪で斧を剣で受け止める。
「さすがだ、紅蓮と紫電・・・お前にはもったいないくらいだ、ウルァ!!!」
またジルバの斧がシオンに襲いかかる。
「ク・・・」
シオンは何とか受け止めてはいるのだが、完全にジルバの力に押されていた。
ジルバの猛攻を襲いかかり、シオンは後ろに仰け反るだけで、反撃を隙を与えられなかった。
「オラ、オラ、オラ、オラァアァァアア!!!どうしたぁ!!聖者ァ!!!」
斧と剣が混じり合う音がかなり大きな音で響いている。
「だから、聖者はこんななんだよ!!!一番は魔族だぁ!!!ウルァ!!」
ジルバはまだ反撃をやめる気配はない。
「いつも俺らのことを悪人悪人って・・・無能で力ねぇくせに善人ぶってんじゃねえぞ!!!カスが!!!」
「勝手に言って下さい」
シオンは挑発的な言葉を言った。
「何ィ!?」
ジルバがそう叫ぶと、シオンはジルバの横に振られる斧の斬撃をバックジャンプで華麗によける。
「これでも、無能で力がない、ですか?」
「!?」
シオンはバッグジャンプ中、空中で姿勢をとり、剣をジルバに斬りつける。
「ヌオッ!?」
ジルバの堅い体のせいで、斬ることはできなかったが、剣でジルバ自体が、目にもとまらぬ速さで、弾け飛ぶ。
「グアア!!!」
ジルバは絶叫をあげると、校舎にもの凄い勢いで突っ込んだ。
衝撃音が響いた。
「やった!」
裕生は感嘆の声をあげる。
「まだです」
シオンは冷たく、言うと剣を再び構え直す。
「ガハハハハハハハハハ!!!」
「ハッ!?」
シオンは一瞬で反応し、素速く後ろを振り返った。
そこにはいつの間にかジルバが立っていて、斧を構えていた。
「だからぁ無能なんだよ!!!」
叫ぶと同時に斧を上から振り下ろし、シオン向かって斬りつける。
「クッ!?」
シオンは必死で横に避けるが、もう一本の斧が襲ってくる。
「オルァ!」
シオンは姿勢が戻せる状態ではなかった。
「!?」
ジルバは油断していたのか、斧がシオンの体を斬りつけることが出来なかった。
シオンの体は外れ、かわりに制服が一本の直線に切られる。
「クソッ!!外れた!」
「・・・チッ」
シオンは後ろにバックステップしながら体制を立て直した。
立て直すと、シオンは走り込み、腰だめした剣を突き出す。
「やあ!!」
風を斬って疾った剣が、ジルバの腹部を抉る。
だが
「グゾォ!なめるなぁ!!」
ジルバは腹に力を込めたように見え、シオンの剣を筋肉がくわえ込んだのか、後退しようとした彼女の足は止められてしまった。
「死ねぇ!!!」
ジルバは斧を上に振り上げた、しかし
「何!?」
ジルバの斧は一瞬にして凍り付いてしまった。
その衝撃で、斧は地面にゴトリと落ちる。
(何だ・・・?)
「全く・・・」
急にからかいの混じった綺麗な声がした。
何故か頭の上から。
冷たい風、冷風が吹き寄せて辺りに砂埃が舞い上がり、裕生は慌てて目を閉じた。
そうして頬に当たる砂が収まってから顔を上げると、マントをなびかせた美男子がまるで空から降ってきたかのようにいつのまにか立っていた。
気付くと、ここから見えるすべての景色は完全に凍り付いていた。
その氷から漂う冷気が感じ取れた。
「ギニィ・・・」
ジルバはこめかみを痙攣(ケイレン)させながら、呟く。
「誰・・・ですか?」
シオンも言う。
「初めまして裕生クン、そして聖者サイフォス蒼電<Vオンちゃん」
男はゼニスブルーの長めの髪をとくように触りながら言う。
服装は貴公子のような格好をしていて、片方の手には細身の剣が握られている。
「ボクの名前は凍牙の刃*plギニー=ファントム。ギニーって呼んでネ?」
「うるせぇ、ふざけんな!何しに来た、ギニー・・・」
「おやおや、ジルバさん勝手な行動してよいのですか?リギラさんがお怒りですよ?」
「うるせぇ!、聖者の首を斬ろうとしているのを邪魔すんじゃねぇ」
「おや?ジルバさんの腕でも首を切り落とせるのカナ?」
「貴、貴様・・・」
怒りに、犬のように歯をむき出したジルバを見て、ギニーは大声で笑う。
「ははははははははははははははははは、いいよその顔、傑作だ!」
ジルバはとうとうきたのか、凍った斧をねじり切った。
「てめぇ!!ギニィ!!!」
ジルバは飛ぶように地面を蹴り、持っている一つの斧でギニーに斬りかかる。
「ウラアアアァアアァアアァァァアアアァアア!!!!!」
しかし、ギニーはため息をしたかと思うと、手を前に出していきなり凶悪な声で言う。
「凍れよジルバ・・・」
「何!?」
少しだけ・・・氷と氷が弾けあった音がしたと思った・・・すると
気付くと、ジルバは凍り付いていた。
ギニーは凍ってしまったジルバを上から思いっきり足で蹴った。
すると先が鋭く尖っている巨大な氷柱が大きな音を出して無数に地面からでてきた。
氷柱によって氷が砕ける鈍い音が響いたと思うとジルバ共々バラバラになってしまった。
その瞬間、ジルバにの周りに冷たい、氷のような風が吹くと、それに掻き消されたようにジルバはいなくなっていた。
「お前はもういいよ」
凶悪な声をやめずに輝きのない、黒い冷酷な目をして言う。
「おや?ボクと戦うつもりだろうけど今日はやらないよ?」
ギニーは戦う体制をとっていうシオンに向かって言う。
そして次は裕生の方を向く。
笑みをたたえた目は奇妙に澄んでいる。
ただ、どこにも焦点が合っていない気がする。
「君が流河裕生クンだね・・・どんなレジストを持っているんだい?」
「・・・何のことだ・・・」
きれいな顔をしている、と裕生は思った。
「レジストには種類があるんだ・・・それをボク達は知りたい・・・」
「・・・レジストってのはお前達にとって何なんだ?どんなものなんだ?」
「何だ、何も知らないのか・・・」
彼が口を開くたび、裕生の背筋に悪寒が走る。
この場をすぐに離れたい衝動にかられた。
「レジストってのは昔、聖者である無限の闘志<Kルガフィンが作った物質なんだ・・・」
ギニーは間をおいて、髪を触る。
「そのレジストってのは、ボク達魔族が使う魔力≠フ根源である、人間の負の感情を吸い取るっていう能力がある魔族にとってはかなりウザいものなんだよネ・・・」
「・・・ということはそのレジストってのがあれば魔族は魔力が使えないってことなのか・・・?」
「そういうコト・・・だからわざわざ幻魔法、呪縛陣っていう唯一魔力を使うための負の感情がいらない囲いを作らなければならないハメになってしまった・・・いちいちそんなの使っていたらラチがあかない、だから今レジスト破壊、もしくは回収っていう行動をとっている・・・」
「・・・」
何となく裕生は黙ってしまう。
「レジストってのは世界に数百個と人間に覚醒されている。これを探し出すのは大変なんだよネ・・・」
「お前はボクを殺すのか?」
「おや?それは人聞きの悪い・・・殺すんじゃない・・・レジストを頂くってだけだよ?」
「レジストを回収するというのは死につながります!」
突然シオンが叫んだ。
ギニーは少し邪悪な笑みを浮かべ、言う。
「何だ、知ってたのか・・・聖者も」
「私たちを無能よばわりする考えをなくしたら?」
ブレスレットの少女、フィオがギニーに向かって挑発的な声で言う。
「おやおや、紅牙<tィオさんもいたんですか・・・」
「いて悪い?」
「ま、どうでもいいケドネ・・・しかし君のレジストはまだ本領発揮はできてないようだネ・・・何をしてたのかな?聖者は・・・」
(本領発揮?)
レジストにはまだ特殊な能力があるのかと思った時、ギニーが言う。
「今日のところは退くよ・・・。計画通りにいかないとだめなタチなんでネ・・・次来るときはレジストを奪いに来る・・・楽しみにしてネ・・・」
「誰がお前ら何かにわたすか・・・」
裕生は少々怒った声でギニーに向かって言う。
ギニーは笑顔が一瞬後退しかけたが、また笑顔に戻った。
「・・・まあいいや、聖者なんて敵じゃないんだ・・・またいつか来る。その時はよろしく・・・」
ギニーはマントを全身に覆ったと思うと、呪縛陣が一瞬にして解けた。
赤い世界がいつもの現実世界に戻る。
壊れていた校舎の壁も何故か元に戻っていた。
また世界は動き出す。何もなかったように・・・。
ギニーもいつの間にか消えてしまっていた。