第七章 襲撃

 南部高校はすべての授業が終わった。

部活に行くもの、遊びに行くもの、勉強するものと様々な目的を持っている生徒が溢れていた。

 「じゃあ俺はテニスがあるからな」

 「ああ、わかった。でも今日、矢部先生いないけど大丈夫なのか?」

 「大丈夫だって!うちの先輩かなりしっかりしてるからよ。先生いなくてもまとまるんだ」

 「そう」

 「でもよ、流河」

 「ん?」

 「マジ月島さんなんかしようとしてるだろう?」

 「またその話?」

 懲りねえな、と裕生は思った。

 「その極意を教える。真面目に聞け」

 「うん?」

 「同棲するとなったら二人きりになるってこともあるだろう。しかしその時はお前が月島さんを押し倒したりすることもあるだろう。その時は悪いことはイワン。ちゃんとひに−」

 緒方が言いかけると、裕生は次は頭ではなく、腹を思いっきり殴った。

 「ぐわあ〜」

 緒方は悶絶したが、裕生はそれに目もくれず、立ち去った。





 「ん?」

 校門を出ようとすると、目の前にシオンが立っていた。

 「遅かったですね」

 「やっぱりいた・・・」

 「行きましょうか」

 シオンは裕生を置いて一人で歩いていく。

 「あ、待ってよ!」

 裕生はシオンを追った。

 「りゅうがぁ〜・・・」

 シオンを追っていると、後ろから声がした。

裕生は何だ、と思って振り返ると、クラスメイト、色黒な少年、宮下 卓也だった。

この男子生徒はいつも塾の悪口を言っている小言男だが、逆にそれが面白いところでもあった。

 「宮下か・・・」

 「りゅう・・・がぁ・・・」

 「・・・?何ふざけてるんだよ」

 一瞬−何となくいつもと違う感じがした。

 前を見ると気付いたらシオンはいなくなっていた。

一人で先に帰ったのかも知れない。

 (何だよ、護るとかなんとか言ってさ・・・)

 「まあいいや」

 「帰、る・・・」

 「じゃあ帰ろうか・・・」

 「帰、る・・・」

 「・・・どうしたんだ、宮下・・・」

 「帰、る・・・」

 何か話が混み合っていなかったが、裕生は首を傾げるだけであまり気にはしなかった。





 「それで流河 裕生」

 「何フルネームで呼んでるんだよ」

 裕生はシオンが先に行ってしまったので、さっき会ったクラスメイト、宮下 卓也と一緒に帰っている。

何となく、宮下の様子が変だった。

 「お前は、流河 裕生・・・」

 「は?そうだけど」

 やっぱりおかしい。

何か宮下の目も妙にズレている気もする。

 「流河 裕生・・・」

 「何?」

 「レジストを持っている、流河 裕生・・・」

 (!?)

 「な、何だって?」

 「俺の役目、は、神器・レジスト、を、蔵している流河 裕生を、魔界、に連れて行くこと・・・」

 (何なんだよ・・・)

 裕生は自らのクラスメイトをよく見た。

これはいつもの宮下ではない。これは完全に別人・・・

 (ま、魔族!?)

 裕生は一歩、後ろに下がる。

 「流河 ヒロお・・・」

 宮下の顔はみるみるうちに、しわが増えていき、声も枯れた老人のようになっていく。

 「お前は誰だ!」

 裕生は思わず叫ぶ。

 「俺のやく、目・・・果たすだけ・・・そう、言われてい、る・・・」

 全く質問に答えていない。

もう人間の顔ではない。

顔に浮かべているのは笑みなのか、殺意なのか、歯を剥き出しにして泡をたてている。

 「俺の、役目・・・流河、ひ・・・ひろ、お、を死なない程度、に殺し、て魔かいに、持ってゆく」

 宮下・・・もといいこの悪魔はそう言うと、体を痙攣させて、裕生の方にゆっくりと歩いてくる。

 (何だよ・・・こいつ・・・)

 裕生はもう一歩後ろに下がる。

 宮下を操っている悪魔はさっきとは違う、素速い動きで手をのばした。

 「うわあ!?」

 予想もしない行動に、裕生は驚き、よけようとするが、手は裕生の喉笛を掴んだ。

 「うぐっ!?」

 宮下は押し倒すように、裕生の背中をコンクリートにぶつけた。

 「ぐ・・・っ・・・な、何、だ・・・」

 かすれた声で裕生は言った。

 「我の名前、は、悪魔・・・パラサイト・・・」

 (ぱ、ぱらさいと?あく、魔・・・)

 「我の、のう、力・・・魔力、使わない・・・人に寄生するために、は、魔力、使わない・・・」

 (魔力を使わない悪魔だって?)

 「呪縛、じん・・・いらない、それ、買われ、て魔人、におくられ、た」

 (やば・・・い・・・こいつ、殺さないとかいって殺す気だ・・・)

 裕生の気が遠くなり始めてくる。

 「その、使命、はた、す・・・だけ・・・殺す!」

 パラサイトが力を強くしてきた。

 「グア・・・」

 裕生はもう意識は飛び始めている。

 「ボクを、殺せ、ばレジ、ストは奪えない、ぞ・・・」

 「知ら、ない、我・・・りゅうが、裕生を・・・殺・・・」

 パラサイトがそこまで言いかけると、後ろから袖を引っ張られたのか後ろに吹っ飛んだ。

 「かはっ・・・ゴホゴホ・・・」

 裕生はそれを一瞬だけ確認して両手を地面につき、咳き込む。

 「大丈夫ですか?流河さん」

 そこに立っていたのはシオンだった。

黒いコートを全身にまとっている少女はどことなく凛々しく見えた。

 「まさかパラサイトを送り込んでくるとは迂闊だったわね」

 フィオがそう言った。

 「何なんだよあいつは!」

 「中級魔族・パラサイトです。人に寄生して操るという厄介な能力をそなえています」

 「じゃあ本物の宮下はどうなったんだよ!」

 「それは大丈夫だと思います。呪縛陣の気配を全く感じない今、殺して操るということは考えられません」

 「・・・そうならよかったけど・・・」

 言うと、宮下に寄生したパラサイトはゆっくりと立ち上がる。

もう顔はいつもの宮下の顔ではなかった。

 「せい・・・じゃ・・・」

 パラサイトが呟く。

 「あらあら、醜い顔ね。流石悪魔だわ」

 フィオはパラサイトに向かって言った。

 「それでは片づけます」

 シオンは二本の赤と青の大剣を構えて言った。

裕生はいきなりハッと気づき、シオンを制する。

 「ちょっと待って!」

 「どうしたのですか?」

 「このまま奴を斬ったら元の宮下が死ぬんじゃないのか?」

 「・・・そういえばそうですね」

 シオンは冷静に言うと、剣の構えを少しゆるめる。

 「じゃあどうするの?このまま野放しにしていれば絶対人間襲うわよ」

 「そうですけど・・・」

 「小さな犠牲で大きな犠牲を防ぐのも一つの手だとは思うわ」

 「やめろ!」

 裕生はフィオに向かって叫ぶ。

 「・・・何、逆らう気?」

 「そうだよ」

 「どこに文句があるの?あのままほっといたら人間を襲うことはおまえでも予想がつくはずよ」

 「そう、そうかもしれないけど・・・」

 「任務には犠牲がつきもの。一つくらい・・・」

 「そう簡単に殺すとか言うな!!」

 また裕生は大きな声で叫ぶ。

さすがのフィオも一瞬言葉を失った。

 「あっ!」

 裕生の方に気を取られていたシオンはパラサイトの攻撃を防いだ。

いつのまにか、パラサイトの腕は不規則な太さで長くなっており、巨大な鋭い爪がのびていた。

 「こいつ・・・」

 またパラサイトがシオン目がけて爪を斬りつけてくる。

 「邪魔する、やつ、片っ端から、殺す・・・聖、じゃなら・・・なお、さら・・・」

 爪と剣が混じり合う音が大きく響いた。

 シオンは一瞬の隙をついて剣でパラサイトの巨大な爪を切り落とそうとするが、逆に弾かれた。

 「うわっ!?」

 その爪は非常に硬く、分厚い。

シオンは少し仰け反る。

 「殺ス!」

 パラサイトはそれを見てシオンを切り裂こうとするが、シオンは間一髪でそれを剣で受け止めた。

 「シオン、爪を切り落とすとか遠回しのやり方はしないで胴体か腕を斬った方が懸命よ」

 「やめろ!」

 裕生はフィオに向かって言う。

 「フィオ・・・」

 「何?」

 「私も、パラサイトを殺すのは反対です」

 「何でよ!じゃあ何?このまま放っておくっていうの!?」

 「そういうわけではありません。人間が死ぬのはもう見たくありません。パラサイトを人間から抜く方法を考えましょう」

 「そんなのあるはずわけないじゃない!」

 フィオが言うとパラサイトがまた爪で斬りつけてくる。

簡単にシオンはそれを弾いた。

 「もう私は知らない。勝手にすれば?」

 「そうさせて頂きます」

 「まったく、人間もわからないし、シオンもわけわかんない・・・」

 フィオは小さく愚痴をこぼした。

 シオンはまた爪を切り落とそうと試みるが傷を入れられなかった。

 「クッ・・・」

 シオンは後ろに大きく飛ぶようにパラサイトとの間をあける。

その時だった。

 「あ・・・」

 裕生は周りを見渡す。

景色の色はすべて鮮血に染まった紅い世界。

自分たちだけがいつもと変わりない色・・・これは

 「呪縛陣!?」

 裕生は言った。

 「な、何でもう使ってくるのですか、昨日使ったばっかりなのに・・・」

 シオン同様周りを見渡しながら驚きの声を上げる。

すると、パラサイトの後ろから裕生は顔の知っているあの男が現れた。

 ゼニスブルーの長めの髪の美男子。

輝きのない黒い目の色、貴公子の服装。手には氷のレイピア。

 「ギニー=ファントム・・・」

 裕生は警戒しながら呟いた。

この男はあの魔人ジルバ=グリーズとシオンが戦っている最中にいきなり姿を現し、自らの仲間であるジルバを簡単に葬り去った魔人だ。

 「お久しぶり・・・でもないかな?流河裕生くんとシオンちゃんと、フィオちゃん・・・」

 顔には不適な笑いを浮かべて言う。

 「何で呪縛陣を使っているのですか?」

 「ん、それは一日たっただけなのに出すのが困難な呪縛陣を使っているのか、ということカナ?」

 「そうです」

 「もう魔族は聖者の想像を超える力を手に入れた・・・幻魔法、呪縛陣を使えるなんて既に容易にできるものになったんだよ?」

 「何・・・?」

 「予想もしていない出来事だったみたいだね・・・魔族と聖者の力の差はまた広くなったって訳だ」

 ギニーは自信に満ちた表情で笑う。

 「何もたもたしてんの、パラサイト」

 「我、流河、ひ、ロオ、を殺す、と、ちゅう・・・」

 「それはわかっているよ・・・。しかし失敗は失敗。それなりの罰を受けて貰わないとネ・・・」

 「ギニー・・・さ、ま・・・」

 「お前は失敗した。役立たずはいらない。役にたたない奴はいても意味がない」

 裕生は何となく嫌な予感がする。

 「殺すな!」

 思わず声を張り上げていた。

 「じゃあね、パラサイト、いや、宮下 卓也クン・・・」

 ギニーは氷のレイピアを持っている手を横にのばすと、レイピアは一気に長くなり、シオンの大剣よりも長くなった。

 「役立たずは切り捨てる!力のない奴は魔界では生きていけない!それが掟だ!!」

 「やめ・・・」

 ギニーは叫び、裕生は止めようとしたが遅かった・・・。

宮下の体に寄生したパラサイトもろとも縦に斬りつけた。

 「ウギャアアアアアアアア!!!!!」

 悲鳴をあげるもむなしくも、宮下の体は真っ二つに切り落とされ、大量の血が噴出している。

 裕生とシオンはその様を、哀しい目で黙って見ているしかできなかった。

パラサイトは痙攣しながら倒れると、ギニーはそれを踏みつけ、足をねじる。

 「これでパラサイトごと消滅した・・・。もちろんあの人間も・・・ははは」

 ギニーの瞳孔は開いて不気味な笑みに変わる。

 「・・・くっ」

 シオンは助けるはずの人間が自分の目の前で容易に殺された悔しさと哀しさの顔で自分の愚かさを悔やんだ。

 「何を、した・・・」

 裕生は自分の拳を強く握りしめる。

 「宮下を、どうした・・・」

 拳を握りしめる力が強くなった。

 人を目の前で息絶える姿を見るのは、しかも殺されるのを見るのは初めてだった。

息が詰まるような感覚がした。

 「・・・くそぉ」

 絞り出した声は怒りに震えていた。

 「シオン・・・」

 いつもとは違う裕生の声を聞いてシオンは少し驚く。

 「は、はいなんですか?」

 「宮下は・・・?」

 シオンは目線を地面に落として黙り込む。

 「宮下はどうなった?」

 「・・・残念、ながら・・・」

 小さく言うと、ギニーは大声で笑い出す。

 「はははははははは、いいじゃないか?こんな人間一匹や二匹」

 「お前は人間を殺した・・・」

 裕生は別人のような表情と声でギニーに向かって言う。

いつもボーっとしている感じの裕生ではない。顔は怒りで溢れている。

 今まで温厚な性格の裕生はこんな顔をしたのは初めてだった。

 「お前は、ヒトを殺した・・・」

 ギニーは笑うのをやめて無表情になる。

 「だからどうした・・・」

 「お前は絶対に許さない!」

 「許さなければどうだというのだ、この人間風情が!」

 言うなりギニーの氷の剣からはかなり大きな冷気が漂った。

それと同時にギニーの顔には道化師の化粧に似た刺青のような模様が浮かび上がる。

 「貴様らの始末はボクがつけてやるよ・・・流河裕生・・・お前のレジストは命ごといただく!−覚悟しな!」

 ギニーの周りに魔法陣のようなものが現れたと思った直後辺りのものすべてが凍り付いていた。

世界は紅い世界から氷の世界へと変貌しつつあった。

 「凍牙の刃<Mニー=ファントムを怒らせたことを後悔させてあげるよ・・・」

 ギニーが言うと、シオンは長いコートの中にしまってある大きな剣を投げて裕生にわたす。

 「どうぞ」

 「これは・・・?」

 「私のお古ですけど切れ味は悪くないと思います。使って下さい」

 「何でボクにわたすんだ?」

 「あなたは、怒りによって変わりました。レジストは完全にあなたに覚醒しました」

 「何を言っているんだ?」

 「レジストを蔵している人間は溢れる怒りによってレジスト本来の力を発揮します。それが本当のレジスト覚醒、本当のレジストの力なのです」

 言っていることはよくわからなかったがレジストにはまだ力が備わっているということがわかった。

 「それでは参りましょう。流河 裕生さん」

 「うん」

 裕生が頷くと、ギニーが氷の剣を持って、裕生向かって斬りつけてきた。

 「死ねぇ!」

 裕生はそれを素速く反応し、剣で受け止めた。

 「貴様・・・!?」

 裕生はギニーの剣を振り切るようにすると、後ろに下がる。

 「・・・どうやら完全にレジストに覚醒したようだね・・・」

 「よくわからないけど、この溢れる力、これがレジスト・・・」

 「覚醒したならなおさらだ!このまま生かしておくわけにはいかない!作戦変更だ!流河裕生もろとも滅する!」

 ギニーは剣を上に振り上げて、飛びながら裕生を斬りつける。

しかし、裕生は跳んで横に避けた。

 「何っ?」

 裕生のかわりに斬られた地面からは氷の柱がでてきた。

 「まぐれか!?」

 ギニーはそう言い、また剣で斬りつけてくる。

しかし裕生は避けた。・・・が、避けた姿勢のまま、ギニーは剣を素速い突きで繰り出してくる。

 「終わりだぁ!!」

 「避けられないなら・・・」

 裕生はそのままの姿勢で剣の少し上に振り上げ、ギニーの剣を下に叩き落とした。

 「叩き落とす!」

 「何ィ!?」

 ギニーは初めて見る焦った顔で、急いで叩き落とされた剣を拾い、後ろに下がる。

 「この!」

 次は裕生は剣をギニーむかって斬りつけるが、簡単にギニーに受け止められる。

 「やっぱり覚醒しても人間は人間カナ?」

 ギニーはほんの少しだけ微笑み、ほんの少しだけ首を傾げて言った。

 裕生の剣とギニーの剣が混じり合うと、裕生の剣は粉々に砕けた。

 「砕、け・・・!?」

 「ボクの魔力はすべてを凍らせるだけじゃない・・・絶対零度からなる冷気で粉々にすることも可能なんだよ・・・もちろん、お前だって!」

 ギニーは氷の剣を裕生目がけて振り下ろした。

 自分の剣が砕け散ったことに気が動転したせいで反応が遅れた。

 (避けられない!)

 どくん、と心臓が跳ねた。

 「危ないっ!」

 その瞬間、シオンが裕生に抱きつくようにして自らが盾になった。

ギニーの剣の鋭い刃がその背中を深く斬り裂く。

 「シオン!」

 「おのれ、聖者・・・!」

 「丸腰の人間を簡単に殺して楽しいですか?」

 シオンは痛みなどないように回りながら、ギニー向かって蹴りを繰り出すと、ギニーは吹っ飛んだ。

 「ぐあっ!」

 ギニーは凍り付いた家の壁に背中からたたきつけられ、崩れた煉瓦の下敷きとなった。

 「シオン、大丈夫!?」

 「大丈夫です。このくらいは・・・」

 とは言ったが、シオンの傷はかなり深い。

シオンの顔はそのせいか、痛みで片目をつむり、歪んでいる

 「流河さん、レジストは覚醒したばっかりです。溢れる力を充分に制御できていません。今日の所は私にお任せ下さい」

 「・・・わかった・・・あと、」

 「何ですか?」

 「ありがとう」

 シオンはそれを聞いて微笑すると、すぐに厳しい表情に変えて、ギニーの方を見る。

 ギニーは煉瓦の下敷きとはなったが、全く痛手は負っていない様子で、すぐにそれを振り払って叫ぶ。

 「ははは・・・面白いね・・・面白くなってきたよ・・・」

 言うとギニーは剣を天に向かって振り上げると大きく回した。

そのまま、シオンの所にまるで目にもとまらぬ弾丸のような速さで突っ込んでくる。

 「クッ・・・!」

 何とか受け止めたが、大きく後ろに倒された。

シオンはすぐに跳ぶように起きあがると、剣を構え直した。

 「よくもボクに無様な格好をさせてくれたな?」

 ギニーはもの凄い勢いでシオンを剣で攻める。

シオンは剣で受け止めることと避けることしかしていない。

 「どうしたんだい!?これが君の力かい?」

 「クッ・・・」

 何とかシオンは剣で斬りつけようとしているが、簡単に弾き飛ばされてしまう。

ギニーも本気だった。

 「これで終わりだ!」

 ギニーはシオンの一瞬の隙をついて剣の峰でシオンをぶっ飛ばした。

 シオンは地面に引きずられるようにたたき付けられた。

起きあがろうとはするが、なかなかできない。

 「シオン!」

 裕生は叫ぶが、シオンは起きあがる気配がない。

 「ふふふ・・・聖者にしてはよく頑張った。いい戦いぶりだったよ?しかし終わりは無様だが・・・」

 ギニーはバカにするように拍手すると地面に横たわっているシオンを優しく触った。

しかしその行動とは裏腹に凶悪な声で呟く。

 「凍れ・・・」

 「・・・クッ・・・」

 シオンは顔を歪める。

 するとシオンは一瞬にして凍り付いてしまった。

あのジルバという魔人のように・・・

 「そして・・・」

 ギニーが言うと、裕生はシオンが殺されると察知してギニーに飛び込んだ。

間に合うか・・・。

 「砕け散れ!」

 叫ぶと、裕生はギニーの顔を思いっきり蹴りをいれると、ギニーは数メートル跳ばされた。

 「シオンーッ!!!」

 名前を呼んでみるが、答える気配はない。

完全に凍りついていた。

 気付くと、後ろにギニーが何食わぬ顔で立っている。

さっきの蹴りは全くきいていたなっかようだ。

 「もう無駄だよ。流河裕生くん」

 「お前・・・」

 「君もこの可愛そうで愚か者の少女のようにしてあげるよ・・・」

 あまい声で言うと、ギニーは裕生の頭を狙って、剣を振り下ろしてきた。

 「クッ・・・」

 裕生は思わず、シオンが落とした二本の大剣の一本の蒼い閃光を放つ神器・“紫電”を拾い、それで間一髪で受け止めた。

 「やるね?」

 ギニーは一瞬、驚いた顔をしたのだが、すぐに笑顔に戻った。

 「マグレもここまで、だよ?」

 ギニーは“紫電”を強く振り切るとまた裕生に斬りつけてくる。

しかし、裕生は敏感に反応し、受け止め、弾く。

 「・・・ボクの剣が受け止め・・・っ!?」

 ギニーは何となく危険を察知したのか、大きく後ろに下がる。

 (何か、いつもと違う・・・。反応もかなりはやくなって・・・動きも・・・)

 裕生はレジストの真の力を改めて実感する。

 「フンッ・・・マグレじゃぁないようだね・・・これもレジストの力かナ?」

 ギニーは戦闘態勢をとって言う。

 「しかし君は力を制御できてないみたいだ・・・わかる・・・」

 「・・・やめよう」

 「何ッ!?」

 ギニーはその虚をつかれた質問に驚きの一声を上げる。

 「こんな、哀しい戦いはしたくない。ボクも死にたくないし、何より戦う意味がない」

 裕生の表情は硬く、強い意志に満ちていた。

しかしギニーは気に入らなかったのか、凶悪で恐ろしい声で言う。

 「何だと・・・!?無意味だぁ?」

 裕生は表情はそのままで頷く。

 「無意味なのは貴様ら人間や聖者の存在だよ・・・?力もない、生きてるだけ無意味な下等種族・・・」

 「それはお前達魔族だ!」

 「・・・ッ!?」

 ギニーは一瞬言葉を失う。

 「ただ、お前達にあるのは弱い者を踏みにじり、自らの欲望のまま振る舞う残虐性だけだ」

 「何だと?」

 「でも人間や、サイフォスは他人を思いやる心、相手を助けようとする心がある・・・よく考えてみろ」

 「・・・そんなのは負け犬の遠吠えにすぎん・・・ただ力が正義だ!力がなければ何も出来ない!」

 「・・・」

 裕生は一歩後ろに下がる。

 「そんな口ばっかの奴等に何が出来る!!!?」

 ギニーは今まで聞いたことのないくらい、大きい叫び声を張り上げる。

そして、裕生に向かって肉眼では追えないほどのスピードで走り、剣を振り下ろしてきた。

 「これでも喰らえッ!!」

 しかし裕生はやはり早く反応し、横にその斬撃をさける。

 「まだだよ、オラァ!!」

 ギニーは攻撃を休む気配はなしに、裕生に剣の斬撃をあびさせる。

裕生はそれを必死に受け止めるか、避けるしかできなかった。

 「どうしたんだい?力がないと生きていけない・・・それがよくわかったろう?」

 「・・・クッ、そんなわけない・・・ッ」

 「生意気な人間だ!」

 ギニーが剣を繰り出したと同時に裕生の剣も繰り出す。

大きい、剣と剣が混じり合う音が綺麗に響いた。

 「こ・・・のッ・・・」

 「・・・クッ・・・」

 剣と剣が混じりあったまま、二人は剣を押し出すようにする行動が続く。

 「なめるなァっ!」

 ギニーは裕生との力に勝利し、剣を思いっきり押し出して裕生をその衝撃により吹っ飛ばす。

 「見せてあげるよ、神器・フロスト≠フ真の力を!!!」

 「何だと!?」

 「もうお前に瞬きさせることもおしい!瞬きを一回でもするとそのときには命はないッ!!!」

 ギニーの両目は黄色に変色した、と思った。

 「喰らえ!究極魔力、砕け散れぇ!!!」

 そして、一回瞬きをする。

 すると、瞬きが終わった瞬間、裕生の肩は大きい傷がパックリと開いていた。

 「・・・え」

 何が起こったのかわからない。

覚えているのは、ギニーの周りにかなり大きい氷の色をした衝撃波のようなものが見えたこと、それだけだった。

 裕生は倒れ込む。

 「・・・チッ、首からは外れたか・・・」

 ギニーはどうやら裕生の首を狙っていたらしい。

 (な、何だ・・・体が、全く、動かない・・・)

 そんなに肩の傷は致命傷とほどでもないはずだ。

しかし何故か金縛りにあったように全く動けなかった。

 (起きあが・・・っ)

 起きあがろうとしてもできない。

 「ふぅ、世話の焼ける人間だ・・・ま、面白かったけどネ」

 ギニーは完全に勝ち誇った、自信に満ちた顔をしてこっちに近づいてくる。

 「殺してしまうにはおしい・・・でも運命、と思うんだネ・・・」

 ギニーと裕生の距離がだんだんと短くなってゆく。

 (だめだ・・・殺される・・・)

 裕生は反射的に目をつむる。

 「本当に面白い奴だ・・・人間って、面白い奴だ!」

 ギニーの声が聞こえる。

 「じゃあボクはさっさと殺して引き上げるとするよ。」

 何か、弱く、先端が尖った鋭く、堅い物が裕生の心臓が奥にある皮膚にあたった気がした。

チクッと小さな痛みが走る。

 「じゃあね、死ね・・・」

 凶悪な声が聞こえたと思うと、先端の尖った物は裕生の皮膚から離れた。

 裕生はもうろうとしている意識のまま、少し目をあける。

ギニーが裕生の体を刺そうと剣を振り下ろしているのがわかった。

 (・・・クッ)

 裕生は悔しさの余り、涙がこぼれ落ちた、と思った時だった。

  「何!?」

 ギニーは刃を突き刺すのをやめ、裕生から目をそらした。

裕生もその方向を何となく見る。

 そこにあったのは・・・

 「シオン・・・?」

 一人の少女が立っている。

周りには巨大な紅蓮の爆炎が広がっており、氷を次々と溶かしている。

 「シオンじゃない・・・」

 その少女は姿はシオンなのだがシオンではなかった。

 違っているのは赤い華麗な紅蓮の色をしている髪の色と瞳の色。

そしてシオンと違って顔は引き締められていている。

 「私は、紅牙<tィオ・・・」

 少女は呟く。この声はブレスレットから出てくる少女の声・・・フィオだった。

フィオはギニーに向かって着実に一歩一歩歩いていった。

まるで炎を従えているかのように、炎が勢いを増した。

 「お前、フィオか!?」

 ギニーは叫ぶ。

 フィオはまだ周りに広がっている紅蓮の炎の中、言う。

 「私はもう一人の私・・・フィオ・・・」

 よくわからなかったが、フィオはシオンの体をつかっているということはわかった。

 「へぇ・・・そりゃあ面白い・・・」

 ギニーは喉の奥で笑った。

 「計画通りいかないとやる気も急降下するタチでね、それに面白い収穫もあったから今日は失敬させてもらうよ?」

 「逃げる気?」

 「ボクが逃げる?バカいっちゃあいけないよ・・・。ボクを誰だと思っているんだい?」

 「勝手にすれば・・・」

 「そりゃあどうも」

 ギニーはフィオに仰々しくお辞儀をして見せた。

その後ギニーはマントを全身におおい、消えた。

 それからの記憶はない。

 そこで裕生の目はとじて、意識がとんだようだ。